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地元に愛される地域資源は人々のご縁をつくる場所
地下鉄東西線の駅の一つでもある「薬師堂」。国の重要文化財に指定されている地域のシンボルです。お寺の境内では、「ご縁日」にあたる毎月8日に手づくり市が開催され、多くの人々の出会いとつながりを創出しています。地域資源である史跡の保護と活用を同時に行いながら、地域の活性化に挑戦しています。
※この記事は「協働まちづくりの実践(平成30年3月発行)」と同じ内容を掲載しています。
陸奥国分寺薬師堂
村山 裕俊 さん( 薬師堂手づくり市実行委員会委員長)
薬師堂手づくり市実行委員会事務局
佐藤 正記さん( 有限会社地球環境計画室TEO)
西大立目 祥子さん( フリーライター・青空編集室)
仙台市文化財課
毎月8日、陸奥国分寺薬師堂の境内の木立の下には100を超えるブースが並び、たくさんの買物客が行き交います。「お薬師さんの手づくり市」では、「手づくりのもので、誰かとつながる」というコンセプトのとおり、手間暇かけて作られた食品や雑貨が販売され、売り手も買い手も声を掛け合って交流を楽しんでいます。
会場となる薬師堂は聖武天皇の勅命により建立され、現在に至るまでこの地に生きる人々の縁をつなぎ、見守り続けてきたお寺です。長い歴史のある境内で、暑くても寒くても、雨が降っても雪が積もっても、人々が集い出会う場所として、この手づくり市は開催されています。
この場所があったから協働が始まった、陸奥国分寺薬師堂の境内に集う人々。手づくりの食品や雑貨が、人と人をつなぐ。
コンサルティング業を営み地方の変化を見てきた佐藤さんは、長年「地域が自らの力で豊かになる術はないものか」と考え続けてきました。そこで着目したのが、住民がさまざまな作品を作り販売する手づくり市です。仙台での開催に向けて、全国の手づくり市を視察しました。そして、まち歩きや歴史的建造物の保存活動をしてきた西大立目さんに開催場所を相談したところ、真っ先にあがったのが若林区木ノ下にある薬師堂でした。緑豊かな境内、歴史ある寺院に集い触れ合う場を設けることができれば、地域ににぎわいや楽しさを生み出すに違いありません。しかも周辺には、新寺や連坊など、伊達政宗公の時代に置かれた寺院が立ち並ぶ由緒ある地域が広がっています。
さっそく、薬師堂に直談判に行くと、ご住職の村山さんは申し出をその場で快諾してくれました。初めて会う人の唐突な依頼にもかかわらず、怪しむことなく受け入れてくれたことに、佐藤さんも西大立目さんも驚いたと言います。ただし、条件が一つ。「市」の開催日をお薬師様のご縁日である8日とすること。村山さんの「参道を行き交う人々とお薬師様のご縁を結ぶことができれば」という思いが込められています。こうして縁日大護摩祈祷会と住職法話に合わせ、手づくり市が開催されるようになったのは2008年のことでした。
薬師堂手づくり市実行委員会の皆さん。
近年は薬師堂周辺でも高齢化が着実に進んでおり、毎日の買い出しに困る人も少なくないそうです。食品の取り扱いは、地元町内会からの要望で始まりました。実行委員会には地元町内会も参加し、こうした住民の意見を共有しています。
また、文化財の活用のため、国、県、市との連携が欠かせません。手づくり市には、仙台市文化財課の協力を受けたガイドボランティアが、第1回開催からブースを設置しています。文化財教諭の小山さんは「来場者の方々に陸奥国分寺跡や尼寺跡の歴史に関心を持っていただいています」と言います。西大立目さんも「お寺の境内で開催することで、歴史に興味のなかった買い物客が、今日はついでにガイドを聞いていこうかと楽しみ方が広がり、魅力の見せ方が多面的になります」と協働の意義を話します。そして、村山さんは「行きたい、見たい、知りたいといった前向きな欲は生きる力。それが湧き出る『市』になったんじゃないかな」とにこやかに語ります。
薬師堂でのノウハウを生かし、2013年からは「新寺こみち市」を開始。こちらも着実にファンを増やし、地域のにぎわいをつくり出しています。佐藤さんは「これからもみんなが良かったと言ってくれる『市』を長く続けていきたいです。後を継いでくれる人も見つかるといいなあ」とほほ笑みます。
(取材・文:市職員ライター 渋谷 聡子)
手づくり市のノウハウを活用した新寺こみち市。
陸奥国分寺薬師堂
〒984-0047 仙台市若林区木ノ下3-8-1/Tel: 022-291-2840
薬師堂手づくり市実行委員会事務局
〒983-0845 仙台市宮城野区清水沼2-3-19有限会社地域環境計画室TEO内
Mail: oyakushisan@gmail.com/Fax: 022-292-4707
HP: http://www.oyakushisan.com/