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農家に新しい風を運ぶ仕掛人
近年、農地や里山への人間の働き掛けが少なくなり、そこをすみかとしていた生き物の生態系のバランスに悪影響が及んでいます。一方で、人手不足に悩む農家も多くあります。多くの人にこの環境と農業の課題に目を向けてもらいたいと、ひとりのコーディネーターが農作業を通して農家と人をつなぐチャレンジをしています。
※この記事は「協働まちづくりの実践(平成30年3月発行)」と同じ内容を掲載しています。
NPOこよみのあしおと
久保田 歩さん
相原農場
相原 栄子さん
夏真っ盛りの8月、若林区日辺にある相原農場でジャガイモの収穫イベントが行われました。イベントに参加したのは農作業を体験してみたい消費者の方々。事前に葉や茎を切り落としてあるジャガイモ畑に機械が入ると、土の中からポンポンとたくさんのジャガイモが飛び出してきます。参加者はジャガイモの土を落として畑に並べ、乾いたらカゴに入れていきます。作業が終わると農家の相原さんから収穫したてのジャガイモが振る舞われました。このイベントは参加者が労働力を提供し、その対価として農家が農作物を提供するという仕組みで、冬場を除き毎月1回開催されています。農作業をしたい人と農家をつなぐのは、こよみのあしおと代表の久保田さん。農作業を通して①既存の農地を守る(生物多様性保全)、②農業について学ぶ・触れる(農業活性化)、③人の交流を目的に活動しています。久保田さんは、以前は環境調査を行う会社に勤めていました。その時に、時代の変化に伴って農地や里山が手入れされなくなることで、生き物のすみかが奪われていることを知り、「人間が一度手を入れた土地を荒れないように守っていくことが、人間の役割なのでは」と思うようになったのだと言います。
そんな時に体験した農作業がとても楽しく、「農作業をしてみたい人はもっといるはず。人手が足りない農家で一緒に作業すれば一石二鳥、さらに農地を手入れしていくことにもつながって一石三鳥だ!」と、突き動かされるように2010年6月に団体を設立しました。
さまざまな活動が生まれる相原農場の畑。農家とイベントの参加者をつなげるのは、愛情を込めて作られた農作物。[こよみのあしおと提供]
相原さんは、久保田さんから初めて電話がかかってきた時のことをこう振り返ります。「夫婦2人で手一杯だったから、ありがたい!と思った。しかも若い人が社会全体のことを考えているなんて本当に感動したの」。元々環境に優しい農業をスローガンにしていた相原さん。2人の思いが重なり活動が始まりました。
現在、久保田さんの活動の趣旨に賛同し、協力する農家は相原農場を含めて3軒。子どもから大人まで、これまでに延べ600人以上の方が農家を訪れました。こよみのあしおとのホームページには、参加者から「農作業をすることで農家のありがたみや野菜の価値を知りました」「自分の手で仕分けることで、今まで虫食いや汚れを気にしていた子どもたちが抵抗もなく美味しそうに食べています」などといった体験談が寄せられています。
活動を始めてから、久保田さんは農作業と併せてさまざまなイベントを企画してきました。プロのカメラマンを招いた写真教室や、不要になった布を持ち寄ったカカシ作り選手権、福祉施設とコラボした野菜を入れるかばん作りなど。これらの企画には、農業と「何か」を組み合わせることで、新しく興味を持ってくれる人を見つけたいという思いが込められています。相原さんは「来てくれた方が、自分とは全く違う目線で農家を見てくれて、企画のたびに新しい気付きがある。農家がすごく生かされているって思う」と語ります。
久保田さんも「一緒にやってくれる人がいるから続けていける。もっと多くの人や企業とつながって、農業や環境に目を向けてもらいたいです」と話します。農家が丹精込めて築き上げてきた農地を舞台に、新しい風を吹き込むチャレンジは続きます。
(取材・文:市職員ライター 菅井 牧子)
相原さん(中央)、久保田さん(右)と農作業参加者の皆さん。
NPOこよみのあしおと
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