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仙台のまちを歩いていると、必ず何人かの外国人とすれ違います。
仙台市の外国籍人口は、2017年4月時点で11972人(仙台市統計資料)。住民100人に1人は外国人住民です。
国際結婚や留学、就労のために来日した人々の定住が進んだことで「外国につながる子ども」が増えています。
日本語習得と教科学習に加え、文化・習慣・制度の理解といった多くのハードルを乗り越えられるよう、外国につながる子どもたちへの支援が行われています。
※この記事は「協働まちづくりの実践」と同じ内容を掲載しています。
外国人の子ども・サポートの会
田所 希衣子さん/吉田 環さん
特定非営利活動法人国際都市仙台を支える市民の会(ICAS)
河田 文子さん
日本語を母語としない子どもと親のための進路ガイダンス実行委員会
森野 カロリナさん
公益財団法人仙台観光国際協会(SenTIA)
堀野 正浩さん
両親のどちらかが外国人であったり、両親ともに外国人で親の都合で来日したりといった、外国にルーツを持つ「外国につながる子ども」がいます。仙台には外国につながる小中学生が149人(2016年4月時点)いますが、これは「外国籍」の児童生徒の統計であり、日本国籍で外国にルーツを持つ子どもの人数までは把握できていません。
外国語による情報提供や日本語学習支援と生活サポートなどの外国人支援事業を行う、仙台市の外郭団体である公益財団法人仙台観光国際協会(以下、SenTIA)の堀野正浩さんは「学校や教育委員会などから相談を受けることが増えており、外国につながる子どもは増えているのではと感じます」と話します。例えば日本人と外国人のハーフと聞くとバイリンガルを思い浮かべてしまいますが、実際は2つの言語の間で混乱したり苦労している子どもが多いのです。
外国につながる子どもたちの母語は、英語だけでなく多様で、日本の学校で学ぶ時、担任の先生がその母語を理解できるケースはあまりありません。また、日本語の日常会話には不自由していなくても、読み書きが苦手な子や、勉強ではあまり結果を出せない子もいます。日常会話などの「生活言語」は2年で習得できると言われるのに対し、勉強で使われる「学習言語」の習得には5年以上かかると言われているからです。
言葉や学習以外にも、文化・習慣・制度などの違いもあります。特に制度については、手続きを行うのは親なので、親の日本語や制度の理解度によっては手続き漏れが起きてしまうこともあります。どこに相談したらいいかも分からず、孤立してしまう親子もいるのです。
学校現場でも教育委員会と連携しながら通訳支援や日本語学習支援を行う外国人子女等指導協力者の派遣制度を活用していますが、支援の効果を高めるには、別の側面からの支援も必要となってきます。
漢字の書き取りを行う児童。
学校で日本の子どもたちと一緒に過ごすことで、会話で使う日本語は確実に身についていきます。しかし、理解を早めたり高めたりするためには、学校以外でも日本語を読み書きし、語彙を増やす勉強が必要です。また、自分だけみんなと違うという孤独感を癒すためには、立場を同じくする他の子どもたちとの出会いも必要です。外国人の子ども・サポートの会(以下、サポートの会)は、日本語が不自由で学校の勉強についていけない子どもの学習支援に加え、日本で高校・大学進学を目指す子どもの受験勉強支援といった、より困難なケースに積極的に取り組んでいます。
サポートの会代表の田所希衣子さんは、日本語教室のボランティア歴30年の大ベテラン。語学関係の仕事をしていましたが、結婚後は転勤が多く語学から離れていました。しかし、仙台に居を構えることになり、また何かを始めてみようと特定非営利活動法人国際都市仙台を支える市民の会(以下、ICAS)の研修に参加。日本語を教えるボランティアは初めてでしたが、やりがいを感じ、その後17年間成人対象の日本語教室で日本語ボランティアをしながら、組織運営も学びました。
そして、活動をするなかで外国の方から子どもに関する悩みを打ち明けられ、大人だけでなく、外国につながる子どもたちにもサポートが必要だと知り、2005年にサポートの会を立ち上げました。
同じくサポートの会の吉田環さんは、現役の日本語教師。5年前に住まいを仙台に移した時、たまたまサポートの会の研修会のチラシを目にしました。サポートの会の活動は「これまでは大人を対象に日本語を教えていたけれど、これからは子どもを含めた地域の人たちに、日本語教師としてのスキルを生かして何かできないか」と考えていた吉田さんの心を惹き付けました。
さっと日本語クラブは、青葉区中央市民センターを会場として、毎週土曜日に開催している小中学生のための日本語講座です。ICASが青葉区中央市民センター、SenTIAと協力し、2004年6月から開講しました。来日したばかりで日本語がまだ話せない外国出身の子、日本国籍だけれど外国で生まれ育った子、日本生まれで会話は得意だけれど学習用語が苦手な子など、さまざまな子どもが集まります。講座では日本語学習や学校の宿題だけでなく、ホールを使ってスポーツをしたり、ゲームや工作などの行事活動を行ったりしています。
ICASのメンバーでさっと日本語クラブの担当をしている河田文子さんは、8年ほど前に「何か始めたい」と思い、市政だよりに載っていたSenTIAの日本語ボランティア講座を受講しました。そして受講後、さらにICASの実践コースに誘われ、そのままボランティアとして活動することになりました。「やってみたら楽しくて」と、続けている理由を自然体で語ります。
サポートの会とICASは学校外の日常的な支援のほかに、SenTIAや関係機関、外国出身の市民たちと連携し、「日本語を母語としない小中学生のための夏休み教室」や「日本語を母語としない子どもと親のための進路ガイダンス」を開催するなど、子どもたちとその家族を支える取り組みを行っています。
日本語を母語としない子どもと親のための進路ガイダンス実行委員会で副実行委員長を務める森野カロリナさんは、日系アルゼンチン人で来日20年目になります。スペイン語通訳として、はじめは神奈川県内で働いていましたが、結婚と出産を経て、仕事の都合で宮城にやってきました。そして、初めて来た土地で心細く、サポートを探していた時に田所さんたちと出会いました。今ではサポートされる側からサポートする側へ立場を変え、かつての自分と同じ不安を抱く親子の支援に取り組んでいます。
ICASが青葉区中央市民センター、SenTIAと協力して開いている「さっと日本語クラブ」。小中学生を対象に日本語学習の支援を行っています。
「外国につながる子ども」と一括りにしてしまいがちですが、環境によって大きな差があります。海外で一定の年齢まで育った子どもは、母語を習得し体系的な学習を終えているため、日本語を覚えれば学習が進められます。一方、小学校低学年で来日した子どもや、日本で生まれ育った子どもは、日本語か母語のどちらかで読み書きの力をしっかりつけないと、学習を支えていく「言葉で考える力」が十分育たないことがあります。吉田さんは「子どもは自分の意思で日本にやってきたわけではないので、自分ひとりが周囲と違うことに漠然とした不安を抱えています。相談できずにいるケースも多い」と話します。こうした子どもたちを支援するには、まずは日本語の習得と体系的な教科学習を行い、授業についていけない時間を少なくする必要があります。これには長期的な支援が欠かせないため、家庭や学校外での支援が重要となってくるのです。
子どもたち一人一人に声を掛けて、学習の進み具合を確認します。
SenTIAは、仙台に住む外国につながる子どもとその保護者への総合的な支援を行う「外国につながる子どもサポートせんだい」を、2017年4月にスタートさせました。入学・編入の手続きや学校での適応、進学相談、受験勉強などさまざまな悩み事の解決に向けたサポートを行い、必要に応じてコーディネーターを派遣しています。コーディネーターは、教育委員会の外国人子女等指導協力者派遣事業で学校に派遣されている通訳支援者・日本語学習支援者に対し、生徒の能力・状況の評価や関係情報の伝達、最適な学習教材の推薦など、支援が効果的に継続されるための助言も行います。
この事業では、サポートの会とICASなども協力し、田所さん、吉田さん、河田さん、森野さんはコーディネーターとしてそれぞれの経験を生かし、取り組みを支えています。学校現場でもノウハウが蓄積され、外国につながる子どもの支援に対する理解が深まることが期待されます。さらに、いつでも相談できる窓口が開設されたことで情報共有が促進されています。
外国につながる子どもの支援は、学校への言語通訳者の派遣だけでは解決しません。堀野さんは「外国につながる子どもサポートせんだい事業によって、学校の内外双方の関係者が支援のあり方を理解し、協力して包括的に支えられるようになれば」と仕組みの定着を目指します。また、仕組みが充実するよう、関係者の定期的な情報交換の仕組み作りや人材育成なども視野に入れています。
田所さんは「人生は一度きり。子どもたちには、いい人生を送ってもらいたい」と、サポートの会を立ち上げた時から変わらない思いを語ります。また、河田さんは「さっと日本語クラブの活動には外国語の能力は必要なく、家族や兄弟の勉強を見てあげる感覚で参加してもらえるので、教師を目指す学生ボランティアも来ています。そういう経験を持つ先生が学校にいれば、子どもたちにとって心強いですね」と将来に期待します。森野さんは「先生方が何に困っているのかが分かると、私たちもサポートがしやすい。外国の生活や習慣を知るだけで、謎が解けるように解決できることもある」と、学校と地域支援団体の距離が縮まることのメリットを話します。
民間、公益団体、行政の枠を超え、多くの人の輪で外国につながる子どもと親を支える仕組みができました。「子どもたちには仙台に来て良かったと思ってもらいたい」と関係者は声をそろえます。それぞれの強みを生かし、手を組むことで、外国につながる子どもたちの未来を学校の内外から支えます。
(取材・文:市民活動サポートセンター 菅野 祥子)
「さっと日本語クラブ」の学生ボランティア。
外国人の子ども・サポートの会
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日本語を母語としない子どもと親のための進路ガイダンス実行委員会
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