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杜の都・仙台のシンボルである広瀬川。
仙台市民にとって特別な存在である広瀬川の自然環境を守り、多くの市民が親しめる川にする活動に取り組んでいる団体があります。
さまざまな主体の参画を得ながら15年にわたり継続してきた活動は、それを支える実行委員会メンバーの熱い思いが原動力となっています。
※この記事は「協働まちづくりの実践」と同じ内容を掲載しています。
広瀬川市民会議
工藤 秀也さん
株式会社深松組
深松 努さん
株式会社東建工営/東北学院大学
梶谷 真さん
株式会社建設技術研究所東北支社
大場 秀行さん
広瀬川1万人プロジェクト実行委員会(以下、実行委員会)は、広瀬川の自然環境を守り、多くの市民が親しめる川とするため、100万都市仙台の1%・1万人をキーワードとして、さまざまなプロジェクトに取り組む任意団体です。
主な取り組みは、広瀬川流域十数カ所で実施する春と秋の一斉清掃。2017年9月の秋の一斉清掃は、14会場で同時開催されました。清掃活動には、実行委員会メンバーのほか、近隣の町内会や子ども会などの地域の方、社会貢献の機会を求める企業、環境に関心のある個人や団体など、誰でも参加できます。
実行委員会は、市民活動団体や地域活動団体、企業、行政など多様な主体で構成され、現在は168団体が加入。加入団体の多さと全団体数の約9割を企業が占めていることが特徴と言えます。
実行委員会委員長を務めるのは、広瀬川市民会議や「作並地区未来プロジェクト」で活動を続ける工藤秀也さんです。広瀬川上流の、大小さまざまな滝が折り重なるように連なる名所「鳳鳴四十八滝」に魅せられ、2001年に東京から仙台に転居してきました。ところが、道路から投棄されたごみの多さに驚き、広瀬川の清流を守り、本来の魅力を多くの人に伝えたいと、さまざまな市民活動を展開してきました。
実行委員会は多様な団体で構成されるため、「市民活動と企業活動の特性の違いなどから合意形成では苦労が絶えなかった」と工藤さん。しかし、多くの団体が参加することで得られるメリットは大きく、「近年はごみが減ってきて、ごみ拾いではなくごみ探しになって参加者が満足できない」と笑顔で語ります。
実行委員会副委員長を務める株式会社深松組代表取締役社長の深松努さんは、工藤さんの熱意に打たれた一人です。工藤さんから誘いを受けたのは2006年。崖下に1.5mの高さにまで積み上がったペットボトルや、道路脇の急斜面のごみ回収など、危険箇所の清掃に協力しました。このことをきっかけに企業の力の必要性を感じ、2008年には澱橋会場の担当者となりました。
深松さんは「清掃や草刈りを実施するうちに、地域の方や近隣の学校とのつながりが生まれてきました。都心部で豊かな自然環境を形成する広瀬川は仙台市民の誇り。その流域を市民が一斉に清掃する取り組みは全国に誇れるものです」と話します。
牛越橋会場担当を務める株式会社建設技術研究所東北支社の大場秀行さんは、多くの人が清掃に参加し、年々減少するごみの量を見て、意義とやりがいを実感しているそうです。仕事柄、河川環境に関心があったことも影響しています。大場さんは「会場担当と協賛金の提供が企業の役割」と言います。清掃後は、参加した30人の社員と芋煮会を実施するなど、楽しみながら思いを若手社員に伝えていく工夫をしています。大場さんの前任者で実行委員会副委員長の梶谷真さんは「かつては実行委員会の取り組みが企業のPR活動と捉えられることもあり、非常に悔しい思いをしました」と語ります。職場が変わって会場担当の役割を大場さんに譲ってからも、毎回清掃に参加するとともに、自身が講師を務める大学の学生たちにも活動を広げています。
清掃活動当日の受付や参加企業ごとの写真撮影など、会場担当は多忙を極めます。
市民活動団体や企業など、さまざまな主体が清掃に取り組みます。
この取り組みは、特定非営利活動法人水・環境ネット東北の発案により、2002年に発足した広瀬川1万人委員会に端を発しています。一斉清掃やフォーラムを通して広瀬川の流域とさまざまな市民をつなぎ、環境に配慮した行動を社会に広げ定着させる環境社会実験の一環(仙台市環境局の委託事業)でした。当初、「広瀬川の清流を守る条例」の施行日にちなんで実施した秋の一斉清掃の参加者は387人、清掃会場数も6カ所でした。その後、活動を重ねるごとに会場数を拡大し、春にも一斉清掃を実施するなど、取り組みを徐々に広げていきました。2006年には事業名を「広瀬川1万人プロジェクト」に、団体名を同実行委員会に改め、2009年からは、広瀬川市民会議に事務局が移り、現在の体制の原型ができました。
そんななか、2010年を境に、実行委員会への企業の加入が急速に増加します。企業の社会的責任(CSR)についての認知が進んできたことに加え、実行委員会に加入し清掃活動に参加した企業には、宮城県から参加証明書が交付されるようになったことも追い風になりました。国土交通省、宮城県、仙台市などの公共事業入札総合評価制度におけるボランティア活動への参加実績として、評価対象となります。2017年現在、168団体が実行委員会に加入しています。
参加団体が増える一方で、各清掃会場の世話役となる「会場担当」を担うかどうかで団体の負担は大きく異なるようになりました。清掃参加者の受け入れのために、清掃用具の手配、危険箇所の下見、報告書の作成、会場によっては駐車場確保のための河川敷の草刈り、安全確保のための道路沿いの草刈りなど、事前作業が発生します。さらに参加証明書の申請手続きのため、申込受付・当日受付・清掃参加団体ごとの写真撮影などの事務を担う必要が生じますが、加入団体のうち熱意ある団体が会場担当として、各清掃会場の運営を受け持っています。
米ケ袋会場には、思わぬ助っ人が現れることも。[広瀬川1万人プロジェクト実行委員会提供]
澱橋会場は公共交通機関のアクセスも良く、車で来場が可能なので、参加者が400人を超えることもあります。
清掃当日に向けて、実行委員会では会場担当者の紹介と事務の流れの説明、清掃以外の取り組みを含めた事業計画などについて話し合われます。会場担当としての各種事務や当日の運営などは企業やNPO法人が動きやすい分野ですが、地域の方へのきめ細かな声掛けなどは地域団体や任意団体などが主となっています。
また、実行委員会の運営を円滑に行うため、会場担当者となっている団体が事前に「会場担当者会議」で合意形成を図りながら事務局運営を支えています。
清掃会場は、国土交通省・宮城県・仙台市・名取市に所管がまたがるため、収集したごみの回収は各行政機関が受け持っています。行政との調整や、各会場担当者との調整なども事務局の役割です。なお、運営経費には、実行委員会加入団体からの一口1万円の協賛金と民間の助成金が充てられており、行政からの資金提供を受けずに運営しています。
会場担当者会議の様子。各会場の担当者が合意形成を図りながら事務局運営を支えます。
現在の清掃参加者は春秋合わせて約3300人ですが、深松さんは「春秋合わせて清掃参加者1万人」を目標に掲げます。会場によっては清掃参加者が400人を超える場合もあり、会場規模の拡大と、これに伴う会場担当の確保が必須です。深松さんは「例えば行政の協力などによるPR体制が充実すれば、社会貢献・地域貢献に取り組みたい企業は多いはず」と語ります。
工藤さんは取り組みの「規模」の拡大のほかに、市民が広瀬川に関心を持って足を運んでもらえるような、取り組みの「幅」の拡充にも意欲的です。
2014年に仙台市が実施した広瀬川に関する市民意識調査アンケートによると、79・1%の人が「広瀬川は仙台市のシンボルである」と考えている一方で、実際に広瀬川の水辺を月に1回以上訪れる人は、15・4%にとどまりました。仙台市の都心部は広瀬川中流域の河岸段丘上に発展しており、地理的には近くにある広瀬川ですが、段丘面の高低差によって、川辺の魅力が分かりにくい点も要因として考えられます。
この現状を変え、広瀬川を多くの市民に親しまれる川にしていくために、実行委員会ではこれまでにもフォーラムやまち歩きなども実施して、広瀬川の魅力に気付いてもらう「きっかけ」を提供してきました。加入団体の企業などが自社の専門を生かして講師となり、実行委員会の他の加入団体を対象に広瀬川の魅力を伝えていく「広瀬川学校」もその取り組みの一つです。2017年度からは、市民向けの事業として取り組んでいます。実行委員会には、水質や河川環境、生態系から酒造までさまざまな分野を専門とする企業や団体が多くいるため、題材には事欠きません。
また、2017年からは、他団体が広瀬川流域で実施しているイベント「広瀬川で遊ぼう」と「作並かっぱ祭り」への協力についても、宮城県から参加証明書の交付が受けられることになりました。広瀬川の一斉清掃を一つの成功事例として、実行委員会の参加証明書発行のスキームをうまく横展開できた事例です。今後ますます広瀬川への企業の関心の高まりが期待されます。
工藤さんは「はじめは参加証明書の取得が目的だとしても、広瀬川に足を運んでもらって、その素晴らしさを感じてもらうきっかけになれば」と思いを語ります。
広瀬川が、より多くの市民に親しまれる川になる日に向けて、実行委員会の取り組みは続きます。
(取材・文:市職員ライター 吉川 登)
広瀬川1万人プロジェクト
HP: http://hirosegawa-sendai.org/
広瀬川市民会議
Mail: hirosegawa_shiminkaigi@yahoo.co.jp