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STEP1 活動事例を知りたい

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片平流・防災まちづくり

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市の中心部にある片平地区には、広瀬川が流れる豊かな自然や歴史がある一方、マンションが立ち並び、都市が持つ課題も多くあります。
住民は子育て世代から高齢者、学生、外国人など多種多様。
片平地区まちづくり会では、住民みんなが参加できる活動を地域に住む外国人や若者たちと一緒に企画・実施し、日頃の連携を強めながら災害に強いまちづくりを進めています。

※この記事は「協働まちづくりの実践」と同じ内容を掲載しています。

RELATION MAP
MEMBER

片平地区まちづくり会
今野 均さん/溝井 貴久さん/柳谷 理紗さん

片平子どもまちづくり隊

特定非営利活動法人都市デザインワークス
榊原 進さん

公益財団法人仙台観光国際協会(SenTIA)
堀野 正浩さん

子どもが主役の「まちづくり隊」

「一緒に素敵な街を作りませんか?」

片平子どもまちづくり隊の隊員募集チラシには、温かみのある手書きの文字でこう書かれています。子どもたちが活動を始めたきっかけは、片平丁小学校での「総合的な学習の時間」の授業でした。特定非営利活動法人都市デザインワークス代表理事の榊原進さんが講師を務め、「片平のまちづくり」をテーマにワークショップが行われたのは2015年のこと。立ち上げメンバーの一人である現在中学2年生の若井希さんは「普段、私たちは何気なくこのまちにいるけど、地域のことを思って活動している方々がいることを知り、自分たちも何かできないかなと思うようになりました」と語ります。

子どもたちが意見を出し合い考えたアイデアは、地域の方々に発表されました。片平地区まちづくり会会長の今野均さんは「これまで子どもたちの企画というのは、プレゼンして終わり、というのが大体でした。でも、この子たちは本気でした。『卒業してもやるのか?』と尋ねると、『やる!』と言うんです。応援しなくてはという気になりましたね」と当時を振り返ります。

今野さんは、子どもたちの思いを形にするため、「片平子どもまちづくり隊」を「片平地区まちづくり会」の一部会として位置付けました。片平子どもまちづくり隊は、片平地区の小中学校に通う子どもたちにより構成されています。毎年8月に開催される「瑞鳳殿七夕ナイト」でキャンドルの展示などを行う「独自イベント運営隊」や、青葉まつりや地域イベントで演舞を行う「すずめおどり隊」、そして「地域イベント協力隊」という3つのチームに分かれて活動を展開しています。

「片平子どもまちづくり隊」として活動している中学生たち。

日本で初めての「防災ゲーム」を開催

町内会役員の高齢化や固定化など、地域づくりの担い手不足が問題になることが多いなか、片平地区では子どもや若者を巻き込んださまざまな取り組みが行われています。また、今野さんは、近隣の大学や専門学校の学生にイベントの手伝いを頼んだり、20〜30代の若い人たちにもまちづくり会の役員になってもらうなど、次世代のまちづくりの担い手を育てることにも意欲的に取り組んでいます。

2017年3月に行われた「防災×宝探しゲーム」は、地域ぐるみで取り組んだ活動の一つ。参加者は地元住民のガイドのもと、地図を片手に謎を解き明かしながら隠された宝物を目指します。ゲームを通して片平地区の自然や歴史、文化に触れ、過去の災害状況や避難場所などについて楽しく学ぶことができます。第1回目の開催では、小中学生を中心に、外国人留学生、一般参加者など約50人が参加してにぎわいました。地域資源の掘り起こしに防災への関心を組み合わせて、地元を舞台にして行う体験型ゲームは日本初の取り組みで、内閣府の2016年度地区防災計画モデル事業に認定されています。なぜここまで先進的な活動が行われているのでしょうか。その秘密は「片平地区まちづくり会」の歴史にありました。

片平のまちづくりについてアイデアを出し合う関係者の皆さん。

第1回「防災×宝探しゲーム」には、約50人が参加。

地域をつないだ「風土記」と防災活動

片平地区まちづくり会とは、地区内の8つの町内会や片平地区社会福祉協議会、片平学区民体育振興会などの地域組織、片平丁小学校や片平市民センターなどの公共施設で組織される団体です。組織の垣根を越えてまちづくりに取り組むため、2010年に発足しました。

2007年頃、片平地区内の花壇・大手町町内会を中心に、空き地活用のモデル事業として「まちなか農園」の管理運営をするなど、地域コミュニティの活性化を図ってきた今野さん。しかし、地区が抱えるさまざまな地域課題の解決のためには、単位町内会を越えた連携が必要だと感じていました。また、高確率で起こると言われていた宮城県沖地震に備えるためには、「自主防災組織」が何より重要だとも考えていました。ただ、突然「防災組織を作ろう」と言っても、なかなかうまくはいきません。そこで考えたのが、地域史『平成風土記』の編さん活動でした。今野さんは「冊子を作るのが目的ではなく、将来的にまちづくり活動をするために、まずは地域をみんなで知ろう、というのが目的でした」と語ります。

2年の歳月を経て、『平成風土記』は2009年に完成しました。こうして地域への愛着と機運が高まり、今野さんの呼び掛けで立ち上がったのが片平地区まちづくり会の前身となる片平地区まちづくり準備委員会です。この準備委員会にまちづくりの専門家として派遣されたのが、都市デザインワークスの榊原さんでした。2010年8月、榊原さんは片平地区のまちづくり計画策定委員会に参加。片平地区まちづくり準備委員会は、さまざまな地域課題の解決のために、地域に何が必要かを検討会で話し合い始めました。そして、検討会が発足して半年余り経った2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。

都市型避難所の戸惑い 垣間見えた異文化交流の難しさ

片平地区全体の防災マニュアルはまだできていなかったものの、まちづくり計画を検討するために、地域の魅力や課題などさまざまなことを住民同士で話し合っていた経緯から、片平地区では今野さんたちを中心として災害対策委員会が発災翌朝10時には立ち上がっていました。片平地区まちづくり準備委員会が母体となった災害対策委員会は、3月31日まで避難所を運営し、委員会の会合は4月9日まで実施されました。都市デザインワークスでは、片平地区の小学校や市民センターなどの避難所運営の様子はもちろん、各町内会での避難について関係者にヒアリングを行い、その記録をまとめています。今野さんは「原発事故と津波被害があったので、内陸側の街中で起きたことは大きな話題になりませんでしたが、内陸は内陸で、重要なことがいくつも起きていたんです」と語ります。

その後、災害対策委員会のメンバーは、ヒアリング内容を今後震災が起こった際に生かすために「災害時における今後の対応方針」を策定し、仙台市にも提案しています。その中で課題に挙がったものの一つが、観光客・留学生の対応の問題でした。

片平地区には、近隣の大学に通う留学生など、多くの外国人が住んでいます。震災時、外国人は炊き出しなどのサービスを受ける側になり、町内会に所属する50〜70代の方々が常に運営を行うという状況が生まれていました。初めの1、2日では問題は起きませんでしたが、1〜2週間経つと、避難所を運営する側の疲れなどもあり、不和が生じることもあったそうです。今野さんは「当時は外国人の皆さんが『お客様』になっていたんです。ただ、お客様にしてしまうような避難訓練をしてきた我々にも非があると感じました」と言います。

炊き出しに「ハラル・フード」

震災後、片平地区では、外国人住民との日常生活からの交流を目指した取り組みに、これまで以上に力を入れるようになりました。地域の季節のイベントへの参加の呼び掛けや、英語・中国語・韓国語の3カ国語に対応したごみ出しルールの掲示などはその代表例です。多国語表示のごみ出しルールの掲示は、もともと花壇・大手町町内会で手づくりのシートを張り出したのが始まりです。2012年からは公益財団法人仙台観光国際協会(以下、SenTIA)の協力により、地区内すべてにイラスト付きの表示が張り出されるようになりました。

また、片平地区の合同防災訓練では、留学生をはじめとする外国人住民が、地域住民と一緒に企画・準備の段階から参加するようになりました。すると、この地域に多く暮らすマレーシアの留学生たちが、自分たちが普段食べているイスラム教で許された料理「ハラル」のスープを訓練の中で作るようになったのです。この炊き出しをきっかけに、参加者同士の交流も生まれました。SenTIAの堀野正浩さんは「外国人住民も含めた多様性のあるまちづくりを実現していくためには、受け入れ側の日本人住民も、外国人住民の文化や考え方を理解していく必要があります」と語ります。

さらに片平地区では、災害時の行動のポイントや避難場所の情報などを分かりやすくまとめた『片平地区防災行動マップ』を2015年に発行。その後、SenTIAや地域の外国人留学生の協力を得ながら、翌年には英語版のマップが作成され、地域の多くの外国人住民に活用されています。

英語・中国語・韓国語に対応したごみ出しルールの表示。

合同防災訓練で炊き出しを行うマレーシアの留学生たち。

「楽しい」から継続していく

片平地区でのまちづくりが活気を持って続いている理由について、片平地区まちづくり会の若手役員である柳谷理紗さんは「楽しさのなかに、このまちの魅力や大切なことに気付けるエッセンスがあるから」と言います。片平子どもまちづくり隊メンバーの一人である中学2年生の小酒井貴統さんは「自分たちで企画したものが、本当に形になっていくのが楽しい。企画して、形にして、企画して……そういう連鎖反応があるから、また続けたいと思う」と学校の勉強や部活と両立させながら活動を続けている理由を話してくれました。

片平地区まちづくり会を中心に、多様な主体が協働し活躍する片平地区。今野さんは「まちづくりというのは、誰かに与えられるものではなくて、自分たちで発見していかなくてはいけないもの。だから、活動を続けていくために何より大事なのは『人』なんです」と語ってくれました。今野さんたちが中心となって始まった片平地区のまちづくりは、次世代を担う若者たちにしっかり受け継がれています。「まちをつくっていくのは、人である」。そのシンプルな事実を大切にしていることが、片平地区のまちづくりの秘訣なのかもしれません。

(取材・文:市民ライター 根本 聡一郎)


CONTACT

片平地区まちづくり会
Mail: info@katahira-machizukuri.org

特定非営利活動法人都市デザインワークス
〒980-0802 仙台市青葉区二日町6-6-903
Mail: info@udworks.net / Tel: 022-264-2405

公益財団法人仙台観光国際協会(SenTIA)

〒980-0811 宮城県仙台市青葉区一番町3丁目3-20 東日本不動産仙台一番町ビル6階
Mail: plan@sentia-sendai.jp / Tel: 022-268-6260

更新日:2019.04.05